教室での顔と生徒同士での顔の違いは確かにあるという前提

いじめの加害者のイメージは、一旦白紙にしてから考えるべきである。
例えば、相談者の保護者の中には、「うちの子は、腕力もあり、体も大きい、主張も強く、リーダー的存在だったし、成績もスポーツも文武両道だったし、友達も多かったと思う。なのに・・・」という趣旨で話す人がいる。

確かに、これまでいじめの被害者というのは、ドラえもんでいうところの「のび太」のイメージが強い。ところが、いじめとは、別段腕力は関係ないし、成績が優秀かどうかもさほど関係はない。そこには、どんなに強い個であっても、集団の前にはその力は発揮されることが少ないということなのだ。

一方、いじめる側は普通の子が多い。特に、成績が優秀であったり、スポーツができるという子も普通にいじめる側にいるものだ。
必ず、いるわけではないが、明らかに不良、という子は、特筆して多いというわけではない。どちらかといえば、クラスで浮いていて、結果的に学校に行かずに、外の世界で居場所を見つけたというタイプの方が、しっくりとくる。

ある中学校のクラスでは、暴言・誹謗中傷をSNSアプリ上で展開するといういじめが発生していた。被害者となったのは、クラス委員にも選出され、成績優秀で、スポーツも万能な男子生徒であった。

加害者は、そのユーザネームで特定されることとなったが、アカウントを消すことによって、簡単な証拠隠滅を図った。アカウントを消して別のアカウントを作り直したことで、その証拠画面が新たに開けない状態になってしまったのである。

そこで、このクラスでは、予防教育などで使われるプログラムを用いて、「いじめとは何か?」「いじめはなぜしてはならないのか?」という授業が行われた。ファシリテーター役は、担任の先生が行うことにしたそうだ。

クラスで出た答えに、担任は満足した。その理由は、クラスはいじめを正確に理解しており、なぜいけないのかという問いに真剣に正答とも言える答えが出ており、クラス全体が積極的に「見えた」からであった。

そして、教員特有の「自分のクラスにいじめをするような卑怯者はいない。」という結論となり、このSNSを使った暴言や誹謗中傷は、「外部犯行」か「自作自演」の可能性を強く主張するようになったのである。

それにより、被害者は翌日から学校を休むという選択をした。「危険回避」である。

調査は容易な作業で完了した。まず、事実として暴言や誹謗中傷が行われた画面は「スクリーンショット」により保管されていた。次に、個別のやり取りからある程度の状況を把握することができた。そこで、「アカウントを消しても、復活する」「復活した場合は別のアカウントであっても、アカウントが変わった事情を伝え、再関係を結ぶ」という常識的な流れから、加害アカウントと関係性があり、被害者に同情的な人物を選定し、その人物へ協力を要請して、アカウントが地続きであるというコメントを引っ張り出すというやり方で十分、証明に足る証拠が収集できたのである。

ここでのコメントは実に辛辣であった。

加害者側は、ほぼクラスの7割が加担していた。クラスは35人学級であったから、およそ24人が加担していた。そのうち、5人組がリーダー的存在と言えるいじめの加害チームであった。彼らは、成績が比較的優秀な男子女子の仲良しグループであった。そして、クラスでいじめについての授業があった時、模範的回答を積極的にすることで、いじめ自体がなかったことにできるのではないかと画策していたのである。

「先生にも都合がある。クラスでいじめがあることは都合が悪いはずだ。だから、犯人がはっきりとわからない以上、みんなが真剣に話し合っているように見えれば、生徒を信じようという”いい大人(子どもたちを理解している)”ふりをするはず。」

いろいろなやり取りをまとめれば、そんなところである。

なぜ、彼をターゲットにしたのかというのは、このリーダー的グループの中の女子生徒が、被害者に好意を持っていた。同時に、グループ内の男子生徒が、この女子生徒に好意を持っていた。被害者の男子生徒は、別のクラスに友人関係の女子生徒がおり、家が近所ということもあって、(部活も同じような時間に終わり、合同練習などもある。)一緒に帰るなどしていた。それを誇張して、男子生徒らがこの女子生徒に伝え、”裏切られた”と思わせることから、始まっていた。

クラスには、担任が気がつかない間に「カースト制」が生まれており、これによって、他の層がこのいじめに加担することで、自らの保身を保っていたことになる。

加害者側は、権力者グループということになるが、事実が明らかになることによって、メッキのように塗られただけの権力は簡単に瓦解することになる。元権力者というのは、存在だけでも威圧的であり、下層の者からは好意を抱かれる存在ではない。だから、一旦メッキが剥がれてしまえば、数多くの不満や悪事が露見することになる。これは世の常である。

そこで明かされた事実は、長く不登校となっている女性生徒も、このグループから執拗ないじめにあっていた事実、アカウントを消したことから、口止めの脅迫めいたメッセージなどであり、結果的に「外部犯行説」「自作自演説」を唱えた担任の先生を「バカにする」内容のトークメッセージなどであった。

未成年といえども、対応する人物によって幾つかの顔を使い分ける。
何もペルソナは大人の専売特許ではないのだ。

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